インプラント治療の症例を一つご紹介したいと思います。
インプラント手術は通常、骨にチタンでできたネジみたいなものを植え付けるだけの単純な手術である上に、すべての工程がシステム化されているため、とても安全な手術と言えます。
しかしながら、時によりこの単純な手術が複雑化することがあります。
その要素として最も多いのが、インプラントを入れるための骨の量が不足しているということです。
今回ご紹介する症例は、上あごの奥歯で骨が無いケースです。
40代、女性。左上の歯茎の腫れを訴えて来院されました。彼女が初めて来院されたのは
2011年の6月ごろでした。
診査・診断により、ブリッジ治療の土台となっている歯が大きく割れていることがわかり、残すことができない状態でした。
もともと2本の歯を失ってブリッジにされていましたので、今回の抜歯により連続した3本の歯を喪失したこととなります。
見た目や気持ち悪さなどにより入れ歯治療は考えておらず、彼女はインプラント治療を選択されました。
歯を抜いて半年後の口腔内写真とCT画像
<2011年12月サイナスリフト術前>
口腔内写真より、 抜歯した左上には3本の歯の喪失が見られ、傷跡はキレイに治っていることが分かります。
次にCT画像の〇印部分に注目してみますと、歯を失った部分周辺が大きく黒く抜けて写っているのが確認できます。これは上顎洞と言われる空洞で副鼻腔の一つです。鼻から吸い込んだ空気が溜まるところで、左右一個ずつあります。
このケースでは本来、失った歯の周辺にあるべき骨がなく、ほとんどがこの上顎洞となっているのです。もちろんこのままではインプラントが入るための骨の量が足りませんので骨を増やさなければなりません。
そこで今回はサイナスリフトといわれる上顎洞に骨を増やす術式を用いて手術を行い、骨量を増加させました。
<サイナスリフト術後CT画像>
〇印のブツブツしている白い像がサイナスリフトによって増やした骨です。
もちろん今の段階ではすべて人工的な骨です。
その後6か月経過を待つことで少しずつ自分の骨となっていくのです。
そして少し自分の骨として固まってきたところでいよいよインプラント手術です。
<2012年6月インプラントOpe後CT画像>
サイナスリフトより半年経過しましたのでインプラントOPEを行いました。
OPE後の〇印部分のCTをみますと、作った骨が少し吸収されて減った代わりにブツブツ感が薄れ、自分の骨と一体化してきている様子が伺えます。
今回のケースはほとんどが作った骨なので、長持ちさせるためにできるかぎり長くて太いインプラントを3本入れました。
<2012年12月最終的なかぶせ物後の口腔内写真>
インプラントOPEから更に6カ月経過し、無事、最終のかぶせ物まで辿り着けました。
そして定期健診時CT画像
<2013年4月>
インプラントOPE後のCT画像と比べても増加させた骨の量に変化はなく、更にブツブツ感が薄れ、更自分の骨との一体化が進んでいることがわかります。
また、鼻腔などへの感染も見られず、インプラントの経過も良好である。
骨の量があり、単純なステップで行うことができるインプラント手術は術後2~3カ月で咬めるようになり、機能しますが、このような骨の量が不足し、いろいろな方法で骨量を増加させていく場合、手術のステップが複雑となり、咬むことができるようになるまで1~2年の月日が必要となって来るのです。
しかし、彼女はたった1~2年の努力でその後快適な食生活をおくれるなら、入れ歯やブリッジのわずらわしさを考えると全然楽だと言います。
現在、極力治療期間を短縮してインプラント手術を行う方法もありますが、当院では複雑なステップが必要であればあるほど、時間をかけてしっかりとした待ち期間を設けながら治療を進めております。そのようにすることで、インプラント手術におけるリスクを減らし、複雑なステップをより安全で確実にクリアしていけるのです。